【治療と仕事の両立支援】メンタル不調者の「働く」を支える社労士の視点

職場でメンタル不調者が出てしまい、復職の進め方・安定して働ける職場作りでお困りの企業は少なくありません。

「一般社団法人ともに」では、厚生労働省の掲げる「治療と仕事の両立」の中でも、特にメンタルヘルス不調にスポットライトを当てて、

・産業医
・社労士
・弁護士
・精神科看護師
・ソーシャルワーカー
・人事部マネージャー
・患者

といった幅広い視点から、メンタルヘルスと両立支援のあり方について発信されています。

「一般社団法人ともに」の立ち上げたのは、社会保険労務士の後藤宏さん、高橋健さん、松山純子さんのお三方。

今回の記事では、後藤宏さんに「一般社団法人ともに」が取り組む社会課題・問題意識についてお話いただきました。

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必要な支援が必要な人に行き届いてますか?

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まず、日本には約3,924,000人の精神障害者の方がいると言われています。

そして、様々な支援も存在するものの、例えば外来通院の3割負担を1割にする自立支援医療を活用している割合は53.5%にとどまっています。

精神障害者保健福祉手帳に関しては21.4%、障害年金は15.3%。

さらに、福祉サービスの利用状況は、精神障害者保健福祉手帳を持っている人のうち約30%となっています。

上記のデータから、約400万人の精神障害者のうち、障害者総合支援法に基づく福祉サービスを利用している人は10%に満たないという現実を垣間見ることができます。

「必要な支援が必要な人に行き届いていないのでは」

と、社会保険労務士としての活動を通じても実感していますし、必要な支援が届いてないことが両立支援の一つの妨げになっていると思います。

一方で、「給付率が上がってしまっては、財源がどんどん枯渇するのでは?」という視点もあるかもしれません。

しかし、意外と知られていませんが、障害年金は、受給しながら働くことができます。

働くことができれば、税金も社会保険料も納めることになるので、サステイナブルな支援のためにも良いループを生み出すことが期待できます。

そういった側面からも、働きづらさを抱えた方々が安心して働ける流れをつくる上で、社会資源を活用した両立支援の役割はとても重要じゃないかと思っています。

メンタルヘルスと両立支援の難しさ

厚生労働省の発行する「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、疾病を抱える労働者の状況の中で、

アンケート調査によれば、疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%である

と書かれています。(過去3年間で)「1か月以上連続休業しているメンタルヘルス不調の社員がいる」と答えた企業が約4割という現状。

日本の企業は約400万社ほどあると言われていますが、単純計算で約160万社がメンタルヘルス不調の社員を抱えている企業という計算になります。

非正規社員の場合、メンタルヘルス不調での退職割合がさらに高いというデータもあります。

その一方で、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」には、がん・脳卒中・肝疾患・難病に関する留意事項の記載があるのですが、メンタルヘルスに関する留意事項の項目がありません。

このような現状を踏まえて、企業の人事部門や、メンタルヘルス不調を抱える社員の方に対して、

「こんな支援や選択肢を活用したら、メンタルヘルス不調の方の両立支援をもっと推進することができますよ」

といった知見を多様な専門性や視点を通じて世に広めていきたいと考えています。

日本の将来推計人口

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上の図を見ていただくと、日本の総人口の減少と、赤で示している就労世代もどんどん減っていることがお分かりいただけると思います。

「働き方改革」は、2065年には15歳〜64歳の層が全体の50%を下回るだろう人口構造への問題意識から推進されていて、働きたくても働けない人への両立支援を進めていく絶好の機会だと思っています。

働き方改革と両立支援の関係

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上の図では、働き方改革実行計画の9つのテーマを挙げています。

1〜4は同一人の生産性を高めるためのテーマ、5〜9番は労働市場に参画していく人を増やすためのテーマになります。いわゆるダイバーシティ(多様性)の実現です。

この中で、両立支援は5番のテーマに含まれていて、

・治療と仕事の両立支援

・子育てと仕事の両立支援

・介護と仕事の両立支援

の三本柱となっています。障害者雇用もこのテーマに含まれています。

働きたくても働けない人の労働市場への参画を促していこうという機運が、両立支援を後押ししています。

働きたくても働けない理由

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働きたくても働けない理由についてグラフでお示ししています。

男性女性ともに、1位は「適当な仕事がありそうにない」。男性の2位、女性の3位が「健康上の理由」となっています。

実際にサラリーマンの方で、高血圧、糖尿、アレルギーなどの理由で通院しながら働いてる人は少なくありません。さらに、加齢に伴って症状が悪化していく可能性もあります。

治療と仕事の両立支援は、この健康上の理由で働けない方々を労働市場に参画してもらうためにはどうしたらいいのかというものです。

メンタル不調者と傷病手当金

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健康保険料を給料から天引で支払っている方には、「傷病手当金」という制度があります。

これは、病気で働けなくなった時に給料の約2/3が1年半もらえるというものです。

傷病手当金の傷病別における構成割合をみると、上の図のようにガンが20%、メンタルヘルス不調が28%でした。

ガンは2人に1人なると言われていますが、100年単位での統計を取ればの話で、職場で周りを見れば、ガンの方よりメンタルヘルス不調の方が多いのではないでしょうか

それはなぜかというと、ガンは加齢によって罹患率が上がるのに対し、メンタルヘルス不調は、若年・中年層に多い疾患だからです。

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これは傷病手当金の受給件数を傷病別に表した図です。

図中、水色部分(15〜54歳)が、メンタルヘルス不調によって傷病手当金を受給しているゾーンになりますが、50-54歳を分岐としてガンで傷病手当金を受給する人のピンク色部分の割合が増えています。

これを見ても、企業が治療と仕事の両立支援に直面するトップの疾患が、メンタルヘルス不調であることがご理解いただけると思います。

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さらに特徴的なのは、メンタル不調者の場合、傷病手当金の資格喪失者の件数割合が高いということです。

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傷病手当金は、原則会社に1年以上在籍していれば、退職後も継続して受給することができます。例えば、傷病手当金を受給しはじめて1ヶ月後に退職したとしても、残り1年5ヶ月は受給できる仕組みになっています。

表1の図は、メンタルヘルス不調では、26,622人の受給者のうち9,684人が辞めていましたという数字ですね。

この資格喪失者の多さからも、企業側の視点で考えると、メンタルヘルス不調者の復職が難しい実態があることが見受けられます。

“がん”と“メンタルヘルス不調”は土俵が異なる

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ガンは私傷病、メンタルヘルス不調は作業関連疾患という違いにも注目する必要があります。

作業関連疾患の場合、業務起因すなわち労災申請の話につながっていきます。

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では、なんでもかんでもメンタルヘルス不調は労働災害なのかというと、そうではないということもポイントです。

メンタルヘルス不調は様々な原因で発症しますが、業務による心理的負担が強いなどの背景が認められたとき、労災の対象になります。

傷病率トップがメンタルヘルス不調と言われる中、業務起因の可能性があるメンタルヘルス不調者の現職復帰の難しさが次の問題と浮かび上がってきます。

メンタルヘルス不調 問題社員への対応

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職場復帰の可能性を主治医の診断に基づいて決める会社が多いと思います。

以下は、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」から抜粋したものですが、

主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません

と書かれていて、「どうしたら主治医の先生に職場復帰の可能性を診断してもらえるのか」という問題が残ります。

主治医の先生は治療をなさっているものの、そのメンタルヘルス不調者がどんな仕事に従事しているかまで知らないといった現状もあります。

・どんな仕事をしているか

・どんな職場環境なのか

などの具体的な情報を主治医の先生に伝えない限り、職場復帰の可能性の判断はとても難しいものでしょう。

社労士の立場からは、企業側に当事者の同意のもとで通院同行を勧めています。主治医の先生に仕事の具体的な情報を伝え、判断を仰ぐのです。

また、産業医を配置する企業も少なくない中、

・産業医の先生が社員の仕事のことをあまり知らない

・産業医の先生が就労不可、主治医の先生が就労可と意見が真っ二つに分かれる

といったことも生じることもあります。これも同じく仕事の具体的な情報を伝えきれていないことに起因するのでしょう。

 

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メンタルヘルス不調者は、その症状から問題社員とされることが多くあります。

企業にお考えいただきたいのは、入社時から問題社員だったのでしょうか、ということです。

入社時は問題社員ではなかったならば、どこで変化が訪れたのでしょうか。

メンタルヘルス不調には様々な要因があります。

上の図にあるように、人生において仕事が占める割合は2〜3割程度です。不調の背景には、健康・家庭・性格などの要因があるかもしれません。

慣れない仕事に回されたのかもしれないし、家庭での介護問題があるのかもしれない…。

どこからの影響を受けて体調に変化が起きたのか、根本原因に目を向ける必要があるように思います。

予防的アプローチで災害連鎖を打ち切る

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次に、予防的なアプローチで災害連鎖を打ち切るのが大事というスライドです。

例えば、間接原因である長時間残業が続く、風通しの悪い職場を改善していれば、うつ病の災害発生には繋がりませんでした。

直接原因である、突発的な業務を他の社員が手伝って解消していれば、災害発生には繋がりませんでした。。

負の連鎖を断ち切れずに、納品が遅れ、上司からの執拗なクレーム…。

「これ以上やったらパワハラですよ」という歯止めが誰からもないまま、負の連鎖が続けば、業務起因によるうつ病を引き起こすことは容易に想像できると思います。

今後の協議会では、メンタルヘルス不調の方を会社で出さないための予防の考え方も踏まえながら、ディスカッションしていきたいですね。


医療・就労・福祉。どんな支援がある?

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治療・仕事・生活。この3つの支援がそろってはじめて両立支援だと考えています。

治療面での経済的な支援だと、医療保険がありますし、外来医療費の3割負担が1割負担になる自立支援医療(精神)もあります。

精神障害者保険福祉手帳をお持ちなら、自治体によっては入院や通院にかかる費用がゼロになるところもあります。

給料から天引される社会保険費を支払っていると、厚生年金・傷病手当などの雇用保険の受給もできます。

病気を抱えて障害年金を受給しながら働くことで、短時間勤務によって病気の影響を和らげながら仕事に取り組むといった選択も可能になります。

介護保険は65歳以上からと思っている方が多いのですが、ガン末期などの場合だと40歳以上から対象になる場合があります。

また、障害者総合支援法に基づく福祉サービスといいまして、介護保険の分野に入らない方でも障害をお持ちの方はホームヘルプ等の障害福祉サービスを使うことも可能です。

社会資源を知らないから利用できないといったことを、なくしていきたいですね。

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障害者手帳を持つことに抵抗感がある気持ちも理解できる一方で、「福祉のパスポート」と言われるように、障害者手帳を持つことで様々な支援を受けることができる大きなメリットがあります。

その一例として、在職中に障害者手帳をお持ちの場合、失業給付日数が最大360日間になり得ます。

一般の離職者で、被保険者であった期間が1年以上10年未満の場合、90日間しかもらえないのが、障害者手帳を持っていると、45歳以上65歳未満で、かつ、被保険者であった期間が1年以上の場合、360日給付されるのです。

雇用保険の給付は、働いていたときの約5〜6割がひとつの目安。まとまった失業給付を受給しながら病気と向かい合うことができれば、安心感にもつながるのではないでしょうか。

そういった側面からも、精神的な負荷を抱えながら現職復帰をありきにするのではなく、一度退職をして、他の選択肢を探るということも両立支援だと考えています。

当事者の視点に立って、両立支援を考えたとき、ジョブマッチングを行うために“色んな会社の中で配置転換していく”といった考え方もありなのではないでしょうか。

以上を踏まえて、協議会の皆さんから知見をお借りしながら、経営者、人事部門、当事者やご家族の方々に、適切な選択肢や方法といった情報を届けられる仕組みづくりができたらと考えています。

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後藤宏

社会保険労務士

一般社団法人ともに 代表理事 オーキッズ社労士事務所 代表

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2019年11月13日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。
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