【メンタルヘルスと両立支援】多職種の視点からみる職場のワーストプラクティス事例

「◯◯さんは、採用した時から問題社員でしたか?」

入社当初は優秀だった社員が、オーバーワーク等によりメンタル不調に陥って休職する…というケースは少なくありません。

厚生労働省の資料によると、疾病を理由として1ヶ月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、

・メンタルヘルス 38%

・がん 21%

・脳血管疾患 12%

とメンタルヘルス不調による休職者の方は多く存在します。

また、メンタルヘルス不調での休職者のうち、4割程度の方が復職に至らずに退職を余儀なくされているという現状が、厚生労働省全国健康保険協会のデータなどから読み取ることができます。

そこで、第1回『協働支援』研究協議会では、実際の事例に基づいて作成された、ワーストプラクティス事例(後述)に対して、

・産業医

・社労士

・弁護士

・精神科看護師

・ソーシャルワーカー

・人事部マネージャー

・患者

など多様な視点から、グッドプラクティスに変えていく上で意見交換を実施しました。

ワーストプラクティス事例

◯当事者Aさんについて(病気発症当時)

年齢:35歳(男性)家族構成:妻(育児休業中)、子2人(3歳、1歳)
勤務年数:4年目(中途入社)…休職可能期間:1年以内
勤務内容:事務部門(課長・係長・主任:本人・パートタイマー2名の5名体制)…正社員1名の人員減、補充なし
主に他部門・外部と調整を図り、外部向けプロジェクトを取りまとめている。
診断名:うつ病

◯人事担当者Bさんについて

年齢:50歳(男性)勤務年数:27年目(新卒入社)
勤務内容:人事総務部門の部長

◯経過

①病気発症
●X年2月
事務部門において正社員1名の人員減(退社)があり、Aさんの業務負荷が増える。
恒常的な残業(月平均90時間程度)が以後約3か月続く。

●X年5月
Aさんは、イベント3件・研修3件のプロジェクトを担当していたが、同僚との連携や他部門との調整がうまくとれず、出納事務が長期間放置されている等、各方面からクレーム・トラブルが多発することになる。
自分の考えにそぐわない意見に対し攻撃的な発言・表現が目立ち、周囲が恐怖心や敵対心を抱くようになる。

●X年6月
事務部門の課長よりBさんに相談があり、BさんはAさんと面談をする。
Aさんが下痢や頭痛、不眠といった現症状を有していること、前職場でも同様の問題でメンタルクリニックへ通院をしていたことを知る。
BさんはAさんに、かかりつけのメンタルクリニックへの再受診を促し、主治医より就労は難しい(3か月の休養を要する)との診断を得る。診断名はうつ病(再発)。

●Ⅹ年7月
会社はAさんに3か月の休職を命じる。
事務部門へは派遣社員1名が増員され、職場内での業務見直しの結果、支障なく事務部門は機能する様になっていった。

②休職
●X年10月
3か月後、主治医より就労は難しい(通常勤務の継続の可否は判断できない)との診断を得る。
会社はAさんの休職可能期間(1年間)の残期間である+9か月(X+1年6月まで)の休職を命じる。

●X+1年4月
休職期間満了3か月前となったので、BさんはAさんに障害者職業センターでのリワーク支援を受けることを打診する。

●X+1年5月
Aさん本人了解の下、リワークプログラムが開始される。
欠席・遅刻が若干あるも、他のリワーク参加者との交流も問題ない。
体調や睡眠の質も改善傾向にある。
会社へのリワーク報告がある。Aさんから、休職前の業務内容での復帰希望とペースがつかめたら新しい業務にも対応したい旨の意向を受ける。

③退職
●X+1年6月
主治医より復職可能との診断を得る。
Bさんより事務部門に原職復帰の打診を図るが、職場の同僚全員から猛反発を受ける(Aさんを復職させるなら、私が辞めます等)。
BさんとAさん及び産業医との面談機会を設けるも、その日はAさんの雄弁さ・ハイテンション振りが目につく。
自分本位の考え方や判断に変わりはなく、同僚への気遣い・人間関係構築を心配している様子はなかった。
会社として総合的に復職不可と判断する。
Aさんは休職期間満了で同月末に自然退職となる。

●X+1年7月
会社に紛争調整委員会からあっせん通知書が届く。
Aさんが解雇無効で労働局へのあっせんを申請したとのことである。
労災保険申請も希望しているとのことである。
一連の対応をしていたBさんには、不眠・食欲不振の症状が見られ、度々の欠勤が続いている。

休職期間満了前に復職の機会を

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江口尚氏 北里大学医学部 公衆衛生学 講師 医学博士

 

これまで10年ほど、中小企業、外資系企業などの産業医として現場の課題に向き合ってきました。

産業医として企業にいた当時、この事例のように「復職をしたい」というご本人の意志があれば、休職期間満了の2,3週間前には一度は復職をしてもらう旨、会社側にはお話しするようにしていました。

メンタルヘルスの問題は、何かの数値を見て判断できる部分が少なく、やってみないとわからない側面が多分にあります。

生活習慣が完全に整っていない状態であっても、働き出してみるとちゃんと働ける可能性もあるんですね。

ですので、診断名は「うつ病」となっていますが、主治医やリワークの支援員ともコミュニケーションを取って、さらなる情報収集に努めることも必要だったのではないでしょうか。当事者を含めた関係者との対話が重要と考えています。

一度復職をした結果、復職が難しいということでしたら、ご本人も納得の上で、今後に向けて会社側と話を進めやすくなり、事例のようなトラブルは未然に防げた可能性もあります。

また、復職不可の選択肢が意識された時点で、会社側との話し合いのプロセスの中で、休職期間満了を見据えて、顧問弁護士の先生など法律の専門家にも入っていただいて進めていくことも大切になります。

最後に、Bさんにもメンタルヘルス不調の症状が見られていると思いますが、このような事例にはチームで対応をする必要があり、属人的な対応になることは避けるほうがよいと思いました。

「支援のバグ」「潜る診断」を直視した支援を

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中金竜次氏 就労支援ネットワーク ONE 代表

 

これまで労務行政で難病の方の就労支援や、看護師として急性期病棟から慢性の障害・病気のある方々の病棟でのケア、障害者職業センターでリワークなどに携わっておりました。

今回の事例については、背景に色々な事情があることは承知の上で、休職期間が残り3ヶ月時点でのリワーク支援への参加は、準備期間の不十分さによる焦りなど、マイナス影響を与える可能性が考えられます。

障害者職業センターでは、

・睡眠時間やリズムが相応に安定していること

・安定通所が見込めること

・小集団でのグループ活動ができる程度に症状が改善していること

・休職期間が6カ月以上残っていると、無理なくプログラム受講可能

などと説明書きが添えてあります。

ですので、復職に向けてしっかりとした休職期間を過ごす上でも、リワークに充てる期間は6ヶ月、できれば1年以上あるとより良いと考えています。

次に、リワークプログラムへの参加により、「遅刻や欠席が若干あるも」と書かれている点は、就労準備性がどの程度まで整っていたのかという側面が気になるところです。

現在の就労移行支援事業所やリワークプログラムに通えたとして、シュミレーションできる時間数は20〜30時間程度で、一般雇用でのフルタイム相当の就労負荷には及ばないためです。

また、本事例では疾病性から事例性として発展した人間関係の問題が、職場での職場への復帰を阻む要因となっているようでした。

ご本人を含めた対話の機会を早期の段階で、他の支援者を含めた面のサポートにしていくのがいいのではと考えます。

ただ、そこには疾病性と事例性を翻訳でき、必要なネットワークを構築する支援者の存在がキーマンになってくるのでは、と考えます。(時に診断の背景に他の疾病が隠れているケースを散見します)

・障害者職業センターと事業者の相談を早期に開始・コーディネートを受ける

・治療から就労への移行期の訪問看護の活用

なども踏まえながら、病気や障害を踏まえた知見(認知機能・疾病によるコミュニケーションへの影響・調子を崩した時のサイン・服薬管理・生活、睡眠リズムの把握)により、リワーク支援の導入期の参考にすることもひとつです。

いくつかの支援機関は浮上しますが、マンパワー不足や支援の縦割りによる連携の課題など、ある種の「支援のバグ」によって、人事労務担当者に責任が重くのしかかってしまうのが実際的な状況かもしれません。

治療を進めながら就労を継続する企業・就業者へのサポートそのもののあり方をどうするべきか。

企業側の細かなニーズやインサイトを可視化しながら、適切なタイミングで支援が行き届く仕組みを整えていくことが今後より必要と思います。

ならし出社・短時間勤務などの段階的なサポートを

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宿野部武志氏 一般社団法人ピーペック 代表理事(CEO)

 

はじめまして。私は3歳のときに慢性腎炎に罹って、18歳から週3回、32年間透析をしています。

その間、がんを罹ったり、耳も悪くて補聴器が手放せないなど、病気とともに生きてきた人生がございます。

今回のケースに関しては、以前勤めていた企業の人事部として同じようなケースを経験していました。

その当時の経験や、現在取り組んでいる透析患者さんへの就労などの支援活動も踏まえて、今回の事例への見解をまとめてみました。

・X年2月:事務部門課長による本人との面談と、事務部門の人員体制の見直し

・X年6月:メンタルクリニックへの受診の促しの前に産業医との面談実施

・X年10月:産業医が関わるべきでは?

・X+1年4月:現職場での「ならし出社」の制度を採用すべき

・X+1年6月:事務部門メンバーからのAさん復職の旨に対する反応を確認する必要性はないのでは?

 

・X+1年7月:本人にとってみれば主治医からは復職可能との判断を受けているのに、「ならし出社」もなく、一度も復職できずに解雇となったことは納得いかないのであろう。 また、休職開始時には(少なくとも文面では)産業医が介入していないのに、復職可否の判断の際には主治医の診断ではなく、産業医の判断で復職不可と判断されたことも納得いかないことの一つではないか。

上記にも挙げた、「復職したい」という意図があるのに、慣らし出社などを含め、一度も職場に戻れずに解雇になってしまったことで不満が出てきてしまうことは、ある意味自然なことのように感じています。

「ならし出社」という取り組みをされている企業も多いと思いますが、職場復帰にあたって出社時間を遅めにずらしたり、短時間勤務から始めるなどの工夫があっても良いように感じました。

また、職場復帰を始めて、安定して出勤の習慣ができたタイミングで業務を増やしていく…という段階的なサポート体制もやや足りない印象を持ちました。

さらに、それ以前にも業務量を分散させてパワーバランスをとることも、本来的には人事部主導で進める必要があったと考えています。

その人の特性や得意を活かした仕事に組み替える

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橋本一豊氏 特定非営利活動法人WEL’S 理事長

 

私たちの団体では15年前に法人を設立し、現在は就業生活支援センター・就労移行支援事業所・就労継続支援B型・相談支援事業、その他さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

日頃の現場での取り組みを通じて、会社トップの考え、企業の方針・環境、現場の方々の理解など、様々な観点から分析していく必要性を非常に実感しています。

その上で、この事例では特に、アセスメントによってご本人のストレングスを把握し、段階的に復職を進めていくことが必要ではなかったのかなと感じました。

この事例と同じように、ご本人としてはうまくいっているけれども、現場の方が受け入れに難色を示しているという会社での復職支援に関わっていたことがあります。

もちろん、障害によってはどうしても復職が難しいこともありますが、大切なのは組織としてメンタルヘルスへの理解を深めることです。

例えば、メンタルヘルス研修を通じて、職場で生じる問題を紐解いていくと、受け入れる側の職場の人自身にも「自分にも◯◯な傾向があるかも」と自分ごととしてお感じいただくケースが多々あります。

社内研修は、障害特性や配慮事項や事例の情報提供をおこない、受入れに向けた準備を段階的に進める上で有用です。

そのように、メンタルヘルスへの理解が職場全体で浸透していくことで、いままでの視点を変えようというマインドが組織に醸成されやすくなります。

復職にあたって、その人の特性や得意なことを活かした仕事内容に組み替えるなどの発想にシフトできれば、復職に向けたミスマッチを減らすこともできるのではないでしょうか。

休業期間満了の場合の法的整理について

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黒嵜隆氏 弁護士法人フロンティア法律事務所 弁護士

 

私自身、大学生の時に交通事故で脊髄を損傷しまして、それからずっと車椅子で生活しています。

弁護士になってからは、弁護士会の障害者委員会という場所などでも活動をしてまいりました。

今回の事例について、弁護士の立場から果たしてこの解雇が許されるのか、休職が有効なのかなど法的な観点から考えてみました。

期間満了により退職扱いあるいは解雇された従業員が「不当解雇」であると主張し、会社との係争に発展する事例は少なくありませんが、この場合の裁判例にはいくつかのパターンがあります。

 

【パターン1】

従業員が休職期間満了までに復職できなかった場合は、多くの裁判例で、退職扱いあるいは解雇は適法と判断されている。ただし、医師が復職可能と診断しているのに会社が復職を認めずに休職期間を満了した場合には、不当解雇と判断している裁判例が多い。

 

【パターン2】

セクハラ、パワハラ、長時間労働、退職強要などによる精神疾患を原因とする休職のケースでは、退職扱いあるいは解雇は不当解雇とされた裁判例が多い。

※なお、本件では紛争調整委員会からあっせん通知書が届いていますが、あっせん制度は、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づいて、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争について、労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、その実情に即した迅速かつ適正な解決を図る制度です。あっせんによる合意が成立した場合には裁判上の和解と同じ効力がありますが、当事者が参加しない場合、話し合いによる合意が形成されない場合には打ち切りとなります

休業期間満了で自然退職というパターンと、解雇というパターンが就業規則であると思いますが、いずれも法的にはあまり変わらないですね。

今回の事例において、労働契約の終了が有効なのかという観点から判断すると基本的には有効になります。

ただ、主治医が復職可能と診断しているのに会社が復職を認めずに労働契約を終了させる場合は違法です。

また、セクハラ・パワハラ・長時間労働など、企業に一定の責任があって退職に陥った場合は解雇が無効になる、あるいは復職が継続されるパターンもあります。

そういった前提をおさえた上で、今回の事例において、Aさん及びBさんにどのような支援が取れたかについて考えてみます。

(1)Aさんについて
①X年2月の段階で事務部門の正社員1名が退社することによって、Aさんの業務にどのような影響を与えるかを検証すべきであった。

②X年5月までの間にAさんへの業務内容についてのインタビューを行って、人員補充の必要性について検討すべきであった。

③X年6月の段階で、Bさんの判断に任せてAさんのかかりつけのクリニックの再受診を促すだけではなく、企業として(Bさんに任せるのではなく)、事前に精神疾患等に羅漢した従業員に対する対応策を講じておくべきであった。
この対応策については、社外の専門家によるアドバイスを受けることが有益と考えられる。

④X+1年5月の段階で、社内でAさんの出社時間や業務内容について、段階的な復帰を検討すべきであった。

⑤X+1年6月の段階で、復職不可と判断する以前に配置転換、業務内容の変更等を検討すべきであった。また、Aさんが自然退職になることの法的問題点を専門家に相談して十分に検討すべきであった。

⑥X+1年7月の段階で、あっせんに対してどのような対応をとるかについて、社内の方針を決定すべきであった。また、労災保険申請を行った場合、Aさんの事案が該当するかどうかについて専門家に相談すべきであった。

(2)Bさんについて
BさんについてAさんのような問題を繰り返さないよう、事前に会社として対応策を講じておくべきであった。

私たちは、企業・労働者のどちらの立場からも相談を受けることが多くあり、法的に相手と交渉することが日常的には多くあります。

ただ、どちらが勝った負けたではなく、いかにお互いにとって良い方向をを目指していくかであったり、障害のある人が多方面で活躍できるような社会にするには、といった視点で、所属している弁護士会でも議論することが多いです。

また、障害者の差別解消に関しても、企業がどういう配慮をするべきなのか、企業側がよく分かってないことも多い印象があります。

もちろん、一方的に障害者側から言うだけではなくて、企業側にもしっかり理解してもらいながら議論が進んでいければと思っております。

環境への働きかけと退職時のフォローの重要性

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出射詩予氏 株式会社パソナ 生涯キャリア支援協会 マネージャー

 

パソナの出射です。パソナは人材派遣や人材紹介という認識の方も多いと思いますが、再就職支援という事業部署もあります。

一昨年からは、社内ベンチャー制度を通じて、キャリアコンサルタントの育成事業も始めました。

日頃感じていることとして、退職やむなしの場合でも次の支援につなげていく必要があるということです。

例えば、精神疾患の方で退職する場合でも、就労移行支援につながれるかどうかで、その後の人生が変わっていきます。

「フルタイムで働かなきゃ」と思っている人でも、障害年金を受給することで無理せず週3回から働いてみようという選択肢を増やすことにもなりますよね。

今回の事例に対しては、以下の観点から考えてみました。

①復職時の支援検討、環境への働きかけができたのではないか

復職検討時、同僚からの猛反発があり、それに対する当事者の自覚の無さを取り上げ、会社は「復職不可」と結論したが、以下のフォローが実施できた可能性がある。

 

・復職先職場への働きかけ

病気発症時の当事者の周囲を威嚇する言動等が、のちの復職検討時における「同僚からの猛反発」の原因であると推測されるが、復職先の職場に対するメンタル疾患理解の働きかけは行われていたか。復職者を受け入れる職場の風土の醸成、メンタル疾患に起因する易怒性への理解、誰にでも起りえる病気であること等、基本的なメンタル疾患への知識を習得する機会の提供等。

 

・復職先職場メンバーへの個別対応、本人と復職先職場との関係調整

復職先職場メンバーへの個別カウンセリングの実施などを通して、過去のトラブルやAさんの言動によって負ったストレス等を把握し、メンバー個別の問題としての解決を図ろうとしたか。職務内容変更等による解決や、理解・歩み寄りの余地は考えられなかったか。また、Aさんに生じた過剰労働と病気発症の背景にある問題をほかのメンバーも抱えている可能性はないか。

 

・別の職場への復職の検討

元の職場に復帰する原則に固執することなく、異動復職の可能性を検討できていたのか。

 

②退職時のフォローができたのではないか。

やむを得ず退職したとしても、その後のキャリア形成支援や社会的復帰へのリファができていたか。再就職支援を利用し十分なカウンセリングと当事者・家族の将来を見据えたキャリア形成支援を受けられた場合、事例にある紛争は回避できた可能性がおおきい。

中高年の再就職支援において、今回の事例と同じような方は多いのですが、

「うつ病になった人が辞めてしまった。次にもし自分がうつ病になったときは、自分も辞めなきゃいけない」

という職場の慣習ができてしまうことを危惧しています。

ですので、これを機会にメンタル疾患の基礎研修を取り入れることもひとつです。

特に、メンタル疾患の易怒性の部分への理解ですね。

どうしても怒りやすくなったり不安定になったりしますが、「嫌なやつ」で終わらせるのではなく「病気のせいかもしれない」という想像力を持てる職場づくりが大切かなと思いました。

ひとつの労働災害としてのメンタル不調

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高橋健氏 一般社団法人ともに 代表理事 特定社会保険労務士

 

「一般社団法人ともに」のメンバーの高橋です。社労士事務所を開設する前は、厚生労働省で労災保険を認定する立場で仕事をしておりました。

職場におけるメンタルヘルス不調はどうしても起きてしまう、ひとつの労働災害です。

労働災害防止のために、例えば足場から落ちて骨折したとなれば、

・命綱はあったのか

・安全策をちゃんと守ってたのか

・今後の防止策

などは、事業主も現場も真剣に考えることがあっても、業務起因で発症したと主張したメンタル疾患となると、そういう発想にならないという現状があります。
実際に「労災申請」という言葉が出てくると、事業主とメンタル疾患の診断を受けた労働者が「業務起因」という言葉に過敏になってしまい、対立関係になってしまう事案が多く見られます。
今回の事例についても、労災の観点からコメントさせていただきました。

Aさんのうつ病(X年2月)について、業務との関連性が否定できないため、労災申請を行うことが出来たのではないか。
H23.12.26付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づいて検討すると、同通達別表「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事15の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」の「強」になる例、「仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(倍以上に増加し、1月当たりおおむね100時間以上となる。」に該当するのではないか。
ただ、前職より通院中だということであり、既往症との関連において労災認定に結びつくかどうかは不明である。いずれにしても、労災申請を行って行政の判断を仰ぐことはできたのではないかと思われます。

従業員がうつ病の診断を受けた段階で「労災なのかもしれない」という視点が会社側にあれば、早期の段階で休職に向けての話合いの方向性が変わったのではないかという思いで書かせていただきました。

福祉の現場での経験と社労士の視点から

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松山純子氏 一般社団法人ともに 代表理事 社会保険労務士

 

「一般社団法人ともに」のメンバーの松山です。社労士事務所を開設する前は、従業員の半数以上が重度の障害を持った福祉施設の職員を10年以上やっていました。

そこの福祉施設では、具合が悪くなったら周りのみんなでサポートしながら働くなどして、重度の方がものすごく元気に笑顔で働いていたんですね。

私がそこの福祉施設でずっと感じてきた「働く喜び」をこれからも伝え続けたいという想いをもって、14年ほど障害年金の分野と顧問業務をやっております。

社労士、障害年金、福祉に居た立場の観点から考えるのと、ひとつは労災の可能性です。

2つ目は職場環境、お互いを尊重しながら働きやすい環境づくりをしてきたかということ。

3つ目はうつ病以外の病気がかくれているんじゃないかということ。

4つ目がフルタイム勤務での復職は本当に適切なのかということ。

5つ目は障害年金をもらいながら働く可能性です。

1.労災の可能性について
月90時間程度の残業が3ヶ月ついて続いているため、労災の可能性と向き合いつつ、前職場でも同様の問題でメンタルクリニックに通院しているとのことなので、今回の企業さんは法律上労災の適用外かもしれません。

しかし、実際には90時間程度の残業があったことは、健康上負担がかかっていることも事実。企業側として90時間もの残業が発生していたことについても企業が向き合えるようにしています。

【時間外労働が多きとき、経営者に2つのことを伝えています】

・未払い残業の問題

・従業員の健康障害の問題(労災の有無に関わらず、従業員の健康を守る)

 

2.職場環境(お互いを尊重しながら働きやすい環境づくりをしてきたか)

「Bさんの復職に関して、職場の同僚全員から猛反発を受けた」ことについて、今まで周囲の人はどれだけ負担があったのかをヒアリングするようにしています。かなり大変ではあったのでしょう。

しかし、“本人は病気になりたくてなっていない”ということも、一方では気づける組織であってほしいとも思います。

そのため、日々の認め合う環境づくりも足りていなかったのかもしれません。このあたりは、今後、認め合う組織づくりが必要かもしれません。

 

3.「うつ病」以外に病気が隠れていないか

産業医との面談時「ハイテーション」「自分本位の考え方や判断」「同僚への気遣い・人間関係構築を心配している様子がない」等を考えると、うつ病のほかに、別の病気が隠れている可能性を産業医とともに探る。(→発達障害の可能性)

 

4.復職は適切か

「休職後、リワークが開始し、主治医が復職可と診断。」について、

下記5点を考えるようにしています。

・リワークは、障害者職業センターをつかったようですが、本人の日常生活や状態から、最後の仕上げ的な障害者職業センターが適切だったのか…?

・本人が主治医に復職可の診断書を書いてほしいと頼み込んでいない…

・復職にあたり、事前に企業から主治医に、「復職後の業務内容」や「受け入れる側として周囲の理解が足りていないこと」を伝えていたか…

・就業規則上、復職規定は「治癒」「フルタイム勤務」なのか、最初は「短時間から可」なのか、就業規則の確認

・就業規則上、「治癒」「フルタイム勤務」となっていた場合、最初は本人の体調にあった働き方の選択も可能か?

 

5.障害年金をもらいながら働く可能性

復職後、フルタイム勤務ではなくて、体調にあった働き方ができれば、ムリせずになるべく体調が安定しながら、働くことが可能になります。

「障害年金」+「賃金」という考え方の働き方の選択肢が可能となります。

企業も、例えば週3日のみと分かっていれば、足りない週2日分を考えることができます。

しかし、無理して働いてしまうと結局、遅刻や欠勤が増え、「アテにできない状態」となってしまうため、復職は「治癒」「フルタイム勤務」がベストではないことを企業や従業員さんに伝えています。

実際には、休職中に「障害年金」の手続きをしてあげると、障害等級2級の可能性も広がりますし、本人も安心できるため、本人がどのような働き方をしたいか、“本人が選択”できることになります。

生活費や治療費の問題があって、無理して頑張ってしまうという問題があります。

休職から復職にいくとき、いきなりフルタイム勤務ではなくて、障害年金をもらいながら、まずは週3、4、5回と勤務して、その先にフルタイム勤務があります。

この事例においても、フルタイム勤務から働かない選択肢を一緒に考えていける人事部や支援者、社会保険労務士がいたら、もう少し違う状況になれたのかなと思うと心が痛いですね。

また、何らかの疾患を抱えていて、コミュニケーションが少し難しい場合、もちろん全員ではないんですが、

本当は病気がそうさせているだけで本人が悪いわけじゃない

という部分までまだ理解が進んでいない点は、福祉と民間企業の大きな違いと思っております。

「Aさんは採用した時から問題社員でしたか?」

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後藤宏氏 一般社団法人ともに 代表理事 社会保険労務士

 

メンタルヘルス不調は、私傷病とは言い切れない、業務起因疾患・作業関連疾患の可能性があり、事例のような休職・復職においては、

・休職前の疾患による勤怠不良が、職場に悪影響を与えていること

・職場に起因したメンタルヘルス不調の場合、原職復帰は再発が有り得ること

を考慮した支援が必要だと思います。具体的には、

・休職前に職場で起こったトラブルは、当人の疾患に起因していたことの職場理解の機会設定

・短時間勤務による慣らし、配置転換や仕事の切り出しによる職務再設計

をお手伝いしていきます。

うまくいくケースでは、経営者の方針がはっきりしていることがすごく大事です。

業務面から見れば、Aさんは問題社員とも言えます(業務懈怠、クレーム・トラブル多発)。

計5名の事務部門社員とAさん、どちらかを選択するとなれば、Aさんへ退職勧奨することが会社を守ることに繋がるとの経営者判断はあってもおかしくないと思います。

こうしたメンタルヘルス不調者への対応時は、経営者に

「Aさんは採用した時から問題社員でしたか?」

と尋ねるようにしています。

Aさんは入社数年、問題なく勤務していますから、どこかの時点で問題が生じるようになったこと(変化点)に気づいていただくためです。

気づいてもらえる社長さんは、「あ、そうだね。昔は違ったな」と仰います。

変化点の背景に、疾患があると分かった時に、(例えば育児休業者と同じように)事情に合わせた継続雇用の方針があれば、治療と職業生活の両立支援は進みます。

明確な継続雇用の方針が出ない場合も、退職・転職(広義の配置転換だと思っています)に向けての再就職支援が必要なのではと感じます。

それゆえに、治療と仕事(原職復帰)ではなく、「治療と職業生活」の両立支援という視点を重視しています。

第一回協議会 参加メンバー

・江口尚氏 (北里大学医学部 公衆衛生学 講師 医学博士)
・中金竜次氏 (就労支援ネットワークONE 代表理事)
・宿野部武志氏 (一般社団法人ピーペック 代表理事 CEO)
・宿野部香緒里氏 (一般社団法人ピーペック 事務局 CFO)
・橋本一豊氏 (特定非営利活動法人WEL’S 理事長)
・黒嵜隆氏 (弁護士法人フロンティア法律事務所 弁護士)
・永田朋之氏 (弁護士法人フロンティア法律事務所 弁護士)
・佐藤勇氏 (弁護士法人フロンティア法律事務所 弁護士)
・出射詩予氏 (株式会社パソナ 生涯キャリア支援協会 マネージャー)
・飯田義久氏 (株式会社日本法令 取締役)
・小沢懐氏 (株式会社日本法令 チーフ)
・後藤宏氏 (一般社団法人ともに 代表理事 社会保険労務士)
・高橋健氏 (一般社団法人ともに 代表理事 特定社会保険労務士)
・松山純子氏 (一般社団法人ともに 代表理事 社会保険労務士)
・滑川順子氏 (一般社団法人ともに)
・三浦加愛氏 (一般社団法人ともに)主催 一般社団法人ともに

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後藤宏

社会保険労務士

一般社団法人ともに 代表理事 オーキッズ社労士事務所 代表

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