残業時間は何時間までならば許されるのか、様々な議論があります。
健康を第一に考えるのであれば、残業時間が短ければ心身への負担が少ないのでしょうが、業務上や自分の能力向上やキャリアアップのために対応しなければならない残業もあります。
そこで今回は、60時間という法定時間外労働(以下、残業)が多いのかを考えてみます。
>>残業問題まとめ!平均時間・上限規制・違法性など【社労士解説】
残業に対する法規制とは?
労働基準法では、原則1日8時間・週40時間(業種によっては週44時間)を超える残業は禁止されています。
しかし、労使協定(以下、36協定)を結び、労働基準監督署へ届出をすることで残業は可能になっています。
36協定は残業する理由やその時期について、あらかじめ労使で話し合いをして長時間労働にならないような仕組みを作るためのもので、厚生労働省の告示では「月45時間、年間360時間」までと定められています。
しかし、特別条項付きの36協定を結べば、実質上限無しで残業をすることが出来ます。
また、上限を設定していてもサービス残業や、風呂敷残業と呼ばれる持ち帰り業務まで入れると、規制が形骸化している一面もあります。
特別条項付きの36協定は残業を増やす温床になっているとの指摘から、上限時間を法制化して、違反企業に対しては罰則を設けるべきとの議論が現在も続けられています。
長時間労働と過労死について
「過労死等防止対策推進法」が2014年11月から施行されています。
この法律は、労災における過労死や心疾患の発生件数が増加していることを背景に、「過労死等」を定義づけ、その発生を防止するための法律です。
過労死等の定義とは?
長時間にわたる過重労働は疲労を蓄積させ、脳・心臓疾患との関連性が高いと医学的な見地からも指摘されています。
脳・心疾患に係わる労災の認定基準では、月当たりの残業時間が45時間を超えて長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強くなり、
発症前1カ月間に100時間又は2カ月間ないし6カ月間にわたり、1月当たり80時間を超える残業があると、業務と発症の関連性が強いと評価されています。
月間60時間の残業は?
まず月間60時間の残業が違法かどうかという観点ですが、36協定が適切な方法で結ばれ、労働基準監督署に届出もされ、残業代も支払いがされていれば、違法ではありません。
では、健康に対する影響はどうでしょうか?
前述したとおり、残業時間が月間45時間を超えて、長くなるほど過労死等と業務の関連性が強くなるとされているので、健康上に何らかの影響が出ても不思議はない時間と思えます。
では、少し視点を変えて生活面ではどうでしょうか?
都市部に勤務するケースで具体的に想定してみます。
【想定条件】
・始業時間9時 終業時間18時(休憩は1時間)の8時間勤務
・自宅から勤務先までは電車通勤で、概ね1時間を要する
・通勤混雑を避けるため、毎朝7時半くらいの電車に乗る
このような勤務形態の会社員は珍しくないと思いますが、1日24時間の中で会社に係わる時間は一体どれくらいになるでしょうか?
8時間勤務の中で業務が収まっていても、往復の通勤時間を考慮すれば、会社に係わることで最低10時間は使っています。
また、急な顧客対応や設定、また職場の飲みにケーションまで入ってくれば、12時間以上はゆうに超える時間になります。
残業60時間をあてはめてみると、月20日の勤務なら、1日3時間残業、毎晩午後9時過ぎに業務終了して自宅に向かっても、帰宅は午後10時を回ります。
翌日のことを考えたら、身体を休めることを優先したくなりませんか?
また、月間60時間の残業が恒常的に発生していたら、家族と過ごす時間も自分のキャリアを上げるための勉強時間も限られてくるのではないでしょうか。
まとめ
月間60時間の残業が長いかどうか、その人の職種や責任、また通勤時間などによって一概に言えない点もあります。
しかし、少なくても月間45時間を超える残業は健康上のリスクを徐々に高め、また仕事と家庭生活のバランスを崩していく面があります。
・会社に大部分の時間をささげる
・会社はささげられた時間に対して十分な報酬と安定を約束する
という合意がお互いにあればまだよいのかもしれませんが、現代社会ではこれは考えられませんし、若い人たちはそんなことがあり得ないことをとっくに見抜いています。
そういった背景から人材確保やライフワークバランスの観点から考えると、月間60時間残業は長いと言えるのはないでしょうか。
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